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最高裁判所第二小法廷 昭和43年(あ)1035号 判決

主文

原判決および第一審判決を破棄する。

被告人らはいずれも無罪。

理由

弁護人山口弘三の上告趣意について。

所論の引用する大審院昭和一一年(れ)第八二五号同年六月一五日判決(刑集一五巻一二号七九三頁)は、立候補届出前に、単に謹賀新年とのみ印刷し、なんら選挙に関する間接または直接の文言を記載していない年賀状を選挙人約六百名に発送した行為につき、これは社交上の儀礼の範囲に止まり、当選を得るためにする意思を表示した行為といえず、従って選挙運動にならないから、衆議院議員選挙法(大正一四年法律第四七号)九五条ノ二、一二九条(昭和二〇年法律第四二号による改正前のもの)のいわゆる事前運動にあたらないという判断を示している。しかるに、本件原判決は、選挙の告示前に、単に「明けまして御めでとうございます。御家内様御一同の御健康と御多幸をお祈り申し上げます」とのみ印刷し、選挙に関する事項を全く記載していない本件年賀状を選挙人に発送した行為を、選挙運動に該当するとし、被告人らを公職選挙法一二九条、二三九条のいわゆる事前運動罪として処罰した第一審判決を是認しているのである。そうすると、原判決は、論旨引用の大審院判例と相反する判断をしたものといわなければならない。

ところで、当裁判所は、選挙の告示前に、単に新年のあいさつのみを記載し、なんら選挙に関する直接または間接の文言を記載していない年賀状を選挙人に発送する行為を、いわゆる事前運動罪として処罰することは許されないものと解するから、前記大審院の判例はなお維持すべきものであって、これを変更する必要を認めない。そうすると、原判決は右判例と相反する判断をし、その結果、被告事件が罪とならないのにこれを有罪とした第一審判決を是認したものであって、この違法は判決に影響を及ぼすことが明らかであるから、論旨は理由があり、原判決は、刑訴法四〇五条三号、四一〇条一項本文により破棄を免れない。

よって、同法四一三条但書により直ちに判決することとし、同法四一四条、四〇四条、三三六条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一)

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